③柚子の話二
私がなぜ柚子によくDMを送っていたか、それは前回の「①柚子の話」でも述べたように、メガネが一因にあった。
メガネの、私を退けて柚子にばかり女性侮蔑的なネタを振って笑いに走り続ける会話のおかげで、私はVCにいづらくなった。
私はせっかく出来た柚子という友達ともっと話したかった。なのでメガネのいないDMでよく話すようになった。
加えて柚子はゲームで強くなるための勉強や研究に熱心で、理論理屈が苦手な私は彼によく質問するようになった。
彼は私が1質問すると10の答えで返してきた。
その大量の文章量と情報力に私は何度も驚かされた。
この人は教えるということが本当に好きなんだなと感じた。
明らかに彼の仕事中に返事が来ることもよくあった。私の質問はこの人には迷惑ではないんだなと感じた。
いつからかプライベートな相談にも真摯に乗ってくれるようになった。
私と柚子の関係は、まさに教師と生徒のそれだった。
私はそうやって柚子を頼ることが楽しかった。
特別なお兄ちゃんが出来た気がした。
この人とは長く仲良くしたいと、そう思った。
柚子も、相談相手として俺を頼ってくれていいよと私に言った。その反面、自分は君の精神安定剤にはなり得ないからね、とも言った。
私にはその矛盾する二つのメッセージをどう同時に解釈していいかわからなかった。
そして、生徒の皮を被った私は、実のところ生徒でも妹でもなかった。
柚子と同じ対等な一人の大人だった。
柚子の助言の中に時々現れる矛盾や内容の浅さに気がついていた。
柚子は私が思い描くような精神性に富んだ先生ではなく、私は柚子が期待するような優しい言葉と褒め讃えることしか口にしない無知で素直で無害な生徒ではなかった。
いつからか、私は女性恐怖症の柚子が恐れるような感情的な大人の女になっていたし、柚子は男性恐怖症の私が恐れるような女性侮蔑的な男になっていた。
柚子は意識的にか無意識的に、私に攻撃的な接し方を時々するようになった。
私もまた、柚子に対していつ嫌われいつ捨てられるのかとビクビクするようになった。
私も柚子も相手を傷つけたいなんて恐らく一度も思ったことはなかった。出来ることなら相手の力になりたいと思った。普通に仲良くしたいと思った。少なくとも私はそうだった。
少しずつ柚子との関係が上手くいかなくなっていた。柚子の些細な言動に私は過剰に傷つき、私の些細な言動に柚子も過剰に傷つくようになった。
私は悩むようになって、周りの団員に相談していた。
それで何とか頑張っていた。
それでもある日、団長から私は呼び出された。
柚子からクレームが来ているよ、と。
それが私が大好きな団にいれた最後の日になった。