⑨東京オフ会二
初めて東京に来た。
二泊三日分の荷物はうんざりするほど重かった。
東京駅は蒸し蒸しと暑く、曇り空。
私は白地に紺の花柄を散りばめたワンピースに、白いサンダルを履いていた。
移動のある旅行初日の服に相応しくはなかったが、それでも私は一番好きな服を着たかった。
ディズニーのキャラクターが描かれた大きな鞄は少し恥ずかしかったが、鞄を選べるほどお金に余裕はなかった。
私が東京に到着するより1時間早く、雅子と柚子は同じ新幹線で到着したらしかった。
最初雅子と、東京に着いたらオシャレなカフェに行こうと話していた。柚子もそのまま誘うような話だった。
しかし柚子は来なかった。
東京へ着くや否やすぐにメガネとどこかへ行ったらしかった。
まるで避けられているようだ、と感じた。
雅子がそんなことはないと言うので、私も悪い妄想はよそうと、この時は深く考えなかった。
しかしその予感は的中していた。
私はこの3日間、柚子とメガネに徹底的に避けられる羽目になる。オフ会の主催者に避けられるなんて、なかなか笑える話ではなかろうか。
まるで女子グループのイジメだなと思った。
緊張で旅行前日は一日ほとんど食べ物が喉を通らなかった。
おかげで当日の早朝から酷い吐き気と気持ち悪さに襲われて、無理やり食べ物を食べて、何とか体調を落ち着かせた。
初めての東京ということにも緊張していたが、一番の原因は柚子だった。
あの団長と柚子との話し合いから三週間、柚子とは何も話さなかった。
ただある日の彼のツイートを私はうっかり見てしまう。それは酷い女性侮蔑的なツイートだった。
冗談半分、本気半分。
どこかの女性にご飯に誘われてうんざりしているという内容だった。
「女性」なんて言い方はしていない。
「ゴミ」と呼んでいた。
私はオタク男性達の複雑な心理など知らない。
彼のこのツイートは、あの話し合いでボロボロに傷ついた私をさらに傷つけるには充分だった。
ご飯が嫌なら柚子がただ一言「NO」と言えば、その女性はゴミ呼ばわりされずに済んだのに。
私の時と全く同じことをしていると思った。
あの三人の話し合いの後、団を辞めた後、私は柚子にDMで言った。
私のDMが不快だったなら直接そう言ってほしかったと。一度でもいいから言って欲しかったと。
それを言うこともせず私に問題が全てあるような言い方はおかしいと。
彼はそのことに関してはDMで私に謝っていた。ハッキリ自分で私にDMを断らなかったことを(他のことでは怒っていた)
あの謝罪は嘘だったのかと思った。
感情がどうしようもないほど暴れ回った。
怒り狂っていた。
このままではまずいと思って、その時は夜だったのですぐに寝た。
翌朝目がさめると、またすぐに感情が大暴れした。腹わたが煮えくり返った。叫びそうだった。
あの日の傷はまだ何一つ癒えてなかった。
柚子のそのツイートに、団長や男性団員達が面白がってイイねやリツイートをしていた。
それがさらに私を傷つけた。
こんな団は初めてだ。
冗談にも限度がある。
なんで誰も何も言わないの?
なんであんな酷い出来事があった後に、柚子はこんなことができるの?
私は男性への愚痴など、柚子や団員が知ってるアカウントで一度も呟いたことがないのに。
ネガティブなツイートは禁止だという団規約を守っていた私は滑稽極まりない。
私は耐えきれなくて柚子に怒りのDMを送った。
これがさらに柚子の怒りを買ったらしかった。
(この後送った謝罪のDMは、彼は見たくもなかっただろう。)
柚子が東京オフで私を完全に避けたのは、あの話し合いの後の拗れとこのためである。
彼は私が少しでも喜ぶことなど一切しないようにしていた。
関係のないメガネも、恐らく柚子から話を全部聞いていて柚子と一緒になって私を避けた。
彼もまた私のことが嫌いなようだった。
団のオフ会に行って、柚子個人ではなく複数人から、主催者から避けられるというのは精神的にかなり堪えた。
雅子が悪気なく旅行前に「みんなで◯◯行く予定なんだ♪一緒に行こうよ!」と誘ってくれた話も、旅行が終わる頃にはまるでそんな話は最初からなかったかのように消えていた。
実際は雅子も柚子やみんなと一緒にそれらに行っていたことは、後でツイッターで知った。
雅子と十姉妹君が、避けられている私を気にかけているのがわかった。
一日目夜、団員約10名ほど集まってみんなでご飯を食べた。
もう団から抜けた私のことをみんなは快く受け入れてくれた。(柚子とメガネ以外)
さあ二次会という流れだったが、結局場所が見つからないとのことで、メガネと柚子ともう一人団員が三人ですぐに別行動して消えた。
残った数人でふらふらゲームセンターに寄った。
UFOキャッチャーしているのを見たりして。
しばらくすると十姉妹君と雅子がみんなから離れて休んでいた。私も何となくそこへ行く。
明日十姉妹君とどこか行く?
私は夕方から合流しようかな、
と雅子と十姉妹君が、少し歯切れ悪く、ハッキリしない会話を私に振った。
一緒に明日どこどこ行こう!でもなく
ぼんやりとした雲を掴み合うような会話。
私に気を使って、私を明日一人にしないような話の流れになっていた。
雅子も十姉妹君私と柚子の事情をよく知っていた。
柚子達が徹底的に私を避けているのも察していた。
私は自分の周りにまとわりつく惨めさを見ないように、二人に向かって笑顔で話した。