日向さん
「そういうのは演じてるっていうんだよ」
笑って私にそう言ったのは、昨日飲み会帰りだったあの人だ。
私はこのよっつめの団で、今もまだどこか「ちゃんとした普通の人」でいた。そう意識していた。
私素の自分を出すのが怖いんだって、
前の団でメンヘラ嫌い君と女嫌い君に仲間外れにされたトラウマがあるんだって、
たまたまVCでその人と二人きりになった今日、口からこぼれるように話した。
みんなと仲が良い、人気者、ムードメーカー、
暖かみのにじむ声と人懐っこい性格、
この人の前では誰もが思わず心の鎧を脱ぎたくなる。
まるで北風と太陽の物語の太陽のような人であり、話していると日向ぼっこをしているような安心感に包まれるので、日向さんと呼ぶ。
日向さんは左手に礼節を、右手に人懐っこさを持ち、ポカポカと人に近づいてくる。
前の団の夏の経験のトラウマから、心に沢山鎧をまとった私が、ああいつかこの人の前で全て話したいなと思うようになったのは初めて話してから一週間もしない。
話さないように気をつけていた。
距離感は大事だから。
近づきすぎてはいけない。相手のために。
そうしないと前の団のときと同じことが起こるのではないか。
でも二人きりになったとき、日向さんは何の恐れもなく自分の話を語り、私も語った。
それを自己紹介と呼び、お互い色んな話をした。
日向さんの前で話すうちに私の胸からポロポロと流れ出たのは、隠していた素の甘えん坊な自分と、涙だった。
何の涙かな。
前の団のことが辛かった涙と、今日までこのよっつめの団で本当は気を張っていた緊張が日向さんの前でほろほろと解けて、久しぶりに鎧を脱いで陽の光を仰いだ心がただただずっと震えていた、その涙。
この人の前では、せめて今だけでも、心を裸にしていいかな、そう思った。
震えそうな安堵の溜息を、日向さんの前で何度も深く吐いた。ああ私はこんなにも緊張していたんだなって思った。
ちゃんとした普通の人ですよモードを保っていた声も、甘えん坊の女の子の声に戻ってしまった。
本当は私はいつもこうありたい。
だけど怖くて出来ない。
「いつもの声より今の声の方がいいじゃん」
私が怖くて必死に隠している女の子の部分を
日向さんは笑ってそう言った。